零の交点

　目的を果たすには強くならなければいけない。
　強くなるためにはたくさん練習をしなければいけない。
　昔はスライム５匹ほどでよかった。それだけで僕のレベルは上がり、より強くなれたものだ。
　今はドラゴンの１０匹か２０匹も倒さないと、１レベルだって上がらない。
　なぜなら、練習とは自分に出来ない難しいことをやって、出来るまでやり続けることだ。
　それが出来て強くなれるのだ。
　スライム５匹倒して強くなった僕にはもはやスライム５匹倒すことは出来ないことじゃない。
　だからより強くなるには１０匹も２０匹も倒さないといけない。
　そうすると今度はスライムを何匹倒してもいつまでたっても強くならなくなる。
　コボルト、ゴブリン、ゴーレム、キマイラ、はぐれデビル、そしてドラゴン。どんどん練習相手も強くなる。そうしなければいけない。
　ドラゴンなんて、僕が以前必死で倒したボスクラスの敵だ。あの時は、仲間五人とドラゴンに効果の高い伝説の剣を近くの神殿から借りてきて、そこまでして戦っても貴重な回復薬のエリクサーを何個も使ってやっと倒せた相手だった。
　それが今や練習相手。こうして、ドラゴンの谷にこっちから出向いて、毎日野生のドラゴンを狩りまわっている。
　それもそろそろ限界だった。２０匹どころか４０匹倒してもレベルが上がらなくなってきたのだ。また強い相手を探さないといけない。
　あとどれほど強くなれば、僕は目的を果たせるのか。僕の目的の魔王討伐は。
　だけど、最近魔王の側近と戦って聞いたのだが、どうも魔王の後ろにはより巨大な力をもつ真の魔王がいるらしいのだ。魔王はあくまでその部下にあたるらしい。
　僕は思う。そのうち魔王を１０匹も２０匹も倒すことになるだろうと。魔王の谷ってあるのだろうか。
　強くなれば状況は進展し、練習相手どころか目的すらより高みへと上っていく。
　ならば僕の心も高みへと上ってはくれないだろうか。
　僕は覚えている。かつて自分が、スライムを倒しただけで強くなれた頃を。
　棒切れのような粗悪な剣で、苦い薬草をかみ締め、焚き火より弱い炎の魔法を唱えて、必死になって仲間と一緒に倒したあのスライムを。
　ドラゴンや魔王を、僕はスライムと同じに考えることはできない。
　心のレベルはいつまでたっても変わらない。昔を覚えている僕は、強くなる敵にも高くなる目標にも強くなる自分にも置いていかれるのだ。